てるの泥棒だけ」
 ルミ子は笑った。彼女は現実からつかんだものをソックリ身につけて、それ以外のことに関心がないようだった。
「先生は疲れてらッしゃるから、お部屋の用意してあげたら」
 と放二にうながされて、
「アッ、そう。大事なお客様だ。めぐりあいが変テコだから、カッコウがつかないや」
 ルミ子は自分の部屋へ急ごうとして、笑いながらふりむいて、
「オジサンに、兄さんに、先生か。男がみんな居るみたいだ」
「弟も、オトウサンもあるわよ」
「そんなの、男じゃないや」
 と呟きながら立ち去った。

       八

 ルミ子の部屋にはチャブダイが一つあるだけで、ほかに家具も、目ぼしい品物もなかった。部屋の隅に日記帳が一冊ころがっていた。
「いくらだい。宿泊料は」
「半額にまけとくわ。千円」
 長平はポケットからむきだしの札束をつかみだして、二千円やった。
「さすがに先生はお金持ね。あの子たちにも、いくらか、あげてよ」
 長平はもう二千円やった。
 ルミ子はそれをつかんで部屋を去ったが、まもなく二人の女が一しょにきて礼を言った。
「おかげで明日は支那ソバたべて、映画が見られるわ」
 カズ子が言
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