どしたように見えた。せつ子と穂積が訪ねた日は、夜になっても、人々が心配したほど疲れを見せなかった。
 ルミ子が遊びに行くと、
「梶さんに会いましたか」
 と、放二がきいた。
「ええ。私の部屋へいらしたわ。ハンドバッグいただいたの」
「話をした?」
「ええ」
「どんな話?」
「そうねえ。面白い話じゃないわ。お世辞の多い方ですもの」
「フフ」
 放二は笑った。
 放二には、梶せつ子という女の像が、いつも目にしみて映じていた。放二の目に映じているせつ子の像を、人々は、せつ子には似ても似つかぬウソの像だと云うかも知れない。それは放二には問題ではなかった。
 せつ子は女らしい女でありすぎるのだ。女のもつ性質の一つ一つを、あまりに豊かに持ちすぎている。特に一つに恵まれるということがなく、全てに平均して恵まれているために、彼女は常に平凡であるが、同時に、停止することも、退くこともできないのである。家庭的でもないし、娼婦的でもない。浮気でもないが、中性でもなかった。特に何物でもない。ただ非常に平均しすぎた女。平均という畸型児であった。
 彼女は家庭婦人となるにしては、男性への洞察力が鋭すぎたし、虚栄心も、名誉慾も高すぎた。しかし、事業家として成功するには、あべこべに、潔癖でありすぎたし、好き嫌いが強すぎる。人を信頼するに過不足でありすぎる。
 彼女の事業も、すでにかなり衰運に傾いているのではないかと放二は思っていた。彼女は、どこへ行くだろうか? それを思うと、放二は暗い。
「お世辞を使わずに、思うことをハッキリ言える人は、強い人ですよ」放二はルミ子に語った。
「梶さんは、お世辞を使いすぎるし、無愛想でもありすぎるし、憎みすぎもするし、愛しすぎもするのです。一ツ一ツが強すぎて、めいめい、ひッぱりッこしているから、あの人の中心には、いつも穴があいているのです。一ツ一ツひッぱる糸が生きているけど、あの方には、中心がないのです。女というものを象徴した人形にすぎないのです」
 ルミ子はビックリして放二を見つめた。にわかにウワゴトを言いだしたのかと思ったのである。放二の言葉は、てんで意味がわからなかった。こんなにワケのわからないことは、今まで言ったことのない放二であった。
 放二はやつれて、目が大きく、頬がこけていたので、安らかな顔ではなかった。微笑しようとしても、吐く息が大きくて、思うようにはできない様子である。しかし、ウワゴトではないのであった。
「ルミちゃんは、梶さんの妹なんです」
「え?」
「気質のちがう姉妹があるでしょう。ルミちゃんは、気質のちがう妹なんです」
「そうですか」
「そうです。ですが、女らしい女ということでは、二人とも、似ています。ルミちゃんは、はじめから不幸を選んだのは、賢明だったかも知れません」
「そうですか」
「不幸を選ぶ事のできない人は」
 そう言いかけると、放二の目から一滴の涙がこぼれた。

       十

 放二の部屋には、五人の女たちが、まだ寝泊りしていた。
 重病人の部屋であるから、静粛、清潔ということを医師や看護婦にくどく言い渡されていたし、時々見舞い客もあることだから、万年床をしきッ放してヒルネもしていられない。シュミーズ一つ、ネマキ姿というわけにもいかない。
 以上のことを封じられると、彼女らの自由の大半は失われたようなものであるが、彼女らはこの部屋から立ち去ろうともしなかったし、日中もほとんど部屋にゴロゴロしていた。
 彼女らが泊りの客をつかまえるのは、困難な事業に属するものになっていた。五百円ぐらいでも外泊の客がひろえればよろしい方だ。すると宿へ二百円おいて手取りは三百円である。ママヨと思えば三百円でも客をひろった。すると翌朝手に残るのは百円であった。
「アア! 自分の部屋が欲しい!」
 五人の誰かが毎日そう呟いていたが、誰も真剣に部屋をもつための努力をしているものはなかった。
 五人はめいめい疑り合っていた。誰かが秘密に貯金しているのではないか、と。なぜなら、彼女らは貯金を持ちたいということが、何よりの念願だったからである。
「アア! お金がほしい!」
 毎日誰かが血を吐くような叫びをあげたが、すると一同ゲタゲタ笑ってしまうのである。
「いくら、たまった? 畜生!」
 ヤエ子は病人の枕元であるのもかまわず、自嘲の苦笑をうかべて、憎らしげにルミ子によびかけた。
「あの女が、ハンドバッグ、くれたんだって? 畜生! オレにくれろよ」
 ルミ子は答えなかったが、病人の足もとをゆっくり一と回りすると、ねそべっているヤエ子のクビをおしつけて、おしかぶさって、
「お前には、アドルムあげるよ。ねな!」
「畜生!」
 ヤエ子は牛のように跳ね起きた。ふりむきざま、右の拳に力いっぱいルミ子の顔に一撃をくれた。ルミ子は一枚の
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