と長平がとり交した「ツイデ」に関する論争などは、彼女には論議の因にならない。彼女自身は行えば足りて、他人のことはどうでもよかったからである。
 そのせつ子も、放二の病床を訪ねることと、そして長平に会うことには、気が滅入った。パンパン宿にすみついて、一向に外へも出たがらない長平がバカバカしいからであった。
 せつ子は青木から長平を訪ねてきての報告をきいて、
「そのパンパンは可愛いい子?」
 青木はモッタイをつけて、
「左様。戦後のプロスチチュートは、美貌と同時に学があるね。未熟な芸をひけらかして、古風な型にはまった芸者などにくらべると、身に即した独自な見解をもっていて、甚だイキのよい生物ですな。その中で特に傑出しているのがルミ子というパンパンで、美貌に於ても、独自の見解に於ても、各界の一流の女傑に比して遜色ないほど、一家をなしていらせられるです。あの子の十九という年齢について考えると、他の女傑は、大そうムダに時間を費したものだなと考えさせるところがあるね。女傑は貞操をすてることによって、頭脳的に成育する時間を甚だしく短縮すると見ましたが、どうですかな?」
 せつ子は顔をそむけて、青木を退散させた。
 彼女は特に長平が好きだというワケではない。長平とてもそうである。長いこと会わずにいても、なんということもない。しかし、会えば愉しい時間をすごすことができて、イヤな気分というものに患わされることが殆どなかった。つまり気質的になんとなくウマが合っていて、会うたびにあたたかい友情がよみがえるが、離れてしまうと思いださずにすむのであった。
 せつ子は十九の小娘を嫉妬するイワレをもたなかったが、まったくウンザリした。親友の行跡が、あんまり下らなくて、バカバカしいからである。マジメな顔をして、そんなところへ訪問できるものではない。
 今にこッちへ出向くだろうと思っていたが、青木のつたえるところによると、パンパン宿に居るということと、東京に居るということには、京都と東京と同じだけの距離があって、パンパン宿から東京の一地点へ出向くことは、特に京都から出向くことと同じ意味合いになるのだそうである。パンパン宿から一歩もでずに、そのまま京都へひきあげてしまいそうであったが、長平はたしかにそれをやりかねない性癖であった。
 せつ子はバカバカしくてやりきれなかったが、長平を訪問することにして、穂積をよんだ。
「あなたも一しょに行きましょうよ。バカバカしくて、一人じゃ行けやしないわ」
「ハッハ。ビックリ箱でも、ミヤゲに持ッてらッしゃい」
 しかし、せつ子は珍奇なミヤゲモノをズラリと並べて信長を呆気にとらせた秀吉の女房のような女であるから、放二の病床を慰めるもの、長平へのもの、ルミ子への手ミヤゲに至るまで、しこたま買いこんで、パンパンアパートへ高級車をのりつけた。
 ルミ子の部屋へ一足はいると、
「まア、可愛いいこと! あなた、ルミ子さんね。こんなに清楚で、明るくッて、美しいお嬢さんが、こんなアパートにねえ! あなたは、ほんとに、サンドリヨンね」
 長平には目もくれず、挨拶ぬきでルミ子をほめちぎったが、腹の中ではバカバカしくッて、ウンザリしているのである。

       七

 接客業の女というものは、交際なれているように思われがちだが、実際はアベコベである。彼女らが自由にふるまえるのは、自分の職域においてだけで、一歩出ると敵地の如く、特に同性との社交性を欠いている。女ということを売り物にしているのだから、同性に対しては、交際よりも、敵対感が先立つのはムリがない。
 せつ子は彼女らを心服させるコツを心得ていた。彼女らには敵対感が尖鋭で余裕がないが、一段高く冷静にみると、甘さや盲点がよく分る。心服させるのはワケがない。
 しかし、ルミ子は、ちがっていた。肩をそびやかして対するようなところもなく、狡猾な処世技術によって鋭角をかいているのでもないようであった。
「とても親切に看病して下さるんですッてね。放二さんが感謝していましたよ。若いうちは、親切だけでは、行き届かないものだけど、あなたはお利巧なのね」
 善悪いずれにもとれるような、妙に含みの多い言葉で、せつ子はルミ子をおだてたが、ルミ子は軽く笑っただけで、
「私はヒマなのよ。先生がズッと泊りのお客さんでしょう。ほかの子たちは生活しなきゃならないけど、私の生活は安定。ゴルフも、ダンスもできないし、魚釣りも、ビンゴも、キライだし、パンパンてものは、人並みに遊ぶことを知らないものらしいのね。生活が安定すると、こまるのよ。病人の看病ぐらいに適しているらしい」
 ルミ子の言葉には邪気がないのだが、せつ子は自身の気持にこだわるから、十九の女隠者の述懐を素直にうけとれないのである。
「じゃア、あなたの恋人には、病人が適している
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