ずにはいられなかった。
「貧乏人のヒガミというものは怖しいやね。ねえ、長さんや。貧乏人はあなたのことをこう言うよ。大庭長平という人物は高利貸しと同じ性質の利己主義者にすぎない、とね。誰から何をしてもらう必要のない人間が、誰に何もしてやらないぐらい簡単なことはないやね。それを一ぱし尤もらしく筋を立ててみせる学の心得があるだけ、隣人の心を傷つけ、害毒を流す悪者である、とね。単純明快に、あなたは悪者であるですよ」
「そう。悪者というのかも知れないわね」
青木の言葉をひきとって、感懐をもらしたのはルミ子であった。青木の皮肉な心をひきつがずに、言葉だけを平静にひきついだので、青木は虚をつかれて、ルミ子を見つめた。
「そう。彼は悪者以外の何者でもありませんよ。しかし、ルミちゃんや。悪者の定義を甘やかしちゃいけませんぜ。何故に彼は悪者であるですか」
「利己主義ということは悪者ッてことじゃないでしょう」
「ア。そうですか」
「隣人に冷めたいことも、悪者ッてことにならないわ」
「そのほかにも悪者がいるのかねえ」
「私はね。沙漠へ棄てられた夢をみたことがあるわ。誰が棄てたか知らないうちに、誰かに棄てられていたのよ。みると、お母さんが歩いて行くのよ。お母さん、助けてッて、叫んで追ッかけようとしても、足が砂にうずもれて進むことができないうちに、お母さんがズンズン歩いて行ってしまうの。とりつく島もないわね。でもね。ズンズン行ってしまうお母さんが悪者ッてことはないわ。誰も悪くはないのね。そんな夢を見ることが、悪いことなのよ」
「夢が悪者なのかい」
「私はね。大庭先生がね。人に夢を与えるようなところがあると思うのよ。だから、悪い人だと思うのよ」
ルミ子は真顔でそう言ってしまうと、ふき出して、大そう、こまりながら、
「先生、ごめんね。私はね。人に夢を与えることが、悪いことだと思うんです。怖しいのです。私は人に夢を与えるような気持なんかなかったんですけど、何かしら夢をみて死んだ男の人があったんです。でも私は悪いことをしたとは思いませんでした。したツモリがないのですもの。先生も、そうかも知れません。でも、それは、きッと、悪い事かも知れません」
ルミ子は睡たそうに、目をふせた。
六
せつ子のような多忙な女は、かえってヒマがあるのである。時間を巧みに利用するからであった。
青木
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