に居るッて話はきいたことがあったが、それがお前か」
「強殺だの喧嘩傷害だの、すごい人が話きかせてくれるでしょう。案外なもんね。どんなふうに死ぬもんだか、見てる人、ないわね。私はみんな見てたわ。ちょッと見落しても悪いような気持だもの。なんでもないもんよ。呆気なく、死んでるものよ。ほんとかな、と疑ったのもあったわ」
エンゼルはつまらなそうにビールを呷っていたが、
「自殺なんてものは、つまらんものにきまってらアな」
ちょッと凄んでみせた。
「返り血をあびて真ッ赤にそまる果し合いのようなものは、オレがやっても、目がくらんだ気持にならアな。ひどく冷静でもあるし、泡もくらってるものよ」
「どんな悪いこと、してきたの? ずいぶん、お金持ちだってことじゃないの。なんで、もうけたのさ」
六
ルミ子は職業的に、男について階級的な区別を持たなかった。社長と社員、ボスとチンピラ、どっちがどうという区別はない。
彼女は男を大別して、金放れのいい人とそうでない人、ウヌボレの強い男とそうでない男、執念深いのとそうでないのと、だいたいそれぐらいに区劃していた。
金銭について、金に汚い男というものは論外である。パンパンに払った金が惜しくなって、ビールをのんだり物をたべて女に支払わせていくらかでもモトをとろうとするのなどはよい方で、脅迫し、時には本当にクビをしめても金をとり返して行こうとする。それが愚連隊などでなくて、表通りに店をもった商人だの、工場主だの、若いサラリーマンだの、世間では虫も殺さぬ善人で通った連中がそうなのである。
あなたが好き、だとか、又遊びにきてね、というのは、この社会で当り前の挨拶だが、通り一ぺんの挨拶をかけられただけで、恋人のように思いこみ、二度目からは刃物で追いまわすような嫉妬深いウヌボレ屋もいる。そして、刃物をおさめる代償としては、一文も使わずに、遊んで飲んで食って帰ろうというのである。
世間では堅気の善人で通った人がこんなだから、遊びなれた悪党は弱い者にはオトコ気もあり立派な遊びをするかというと、とんでもない話なのだ。
小悪党というものは階級意識の強いものだ。パンパンのような社会的地位がゼロ以下の合法的でない存在に対しては、彼らはいたわりをもつどころか、全人格を無視してかかるのが共通の考え方である。パンパンとはタダで遊んで、おごらせて、バ
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