働くよりも乞食がいいという人もいるし」
「男を死なせて、増長してるパンパンもいるし」
「奥さんになりたいパンパンもいるしね」
「フン」
 ヤエ子は半身を起して、ルミ子を睨みつけた。
「余計なお世話だよ。利いたふうなことを言いなさんな。今さら、弱音をはこうッてのかい。きッと見つけてきますッて、大きなタンカをきったのは、どこのドイツさ。探しておいでよ、エンゼルのウチをさ。色仕掛でも、腕ッ節でも、キッピイにかなわないというんだろう。チェッ! ハッキリ言えよ。さもなきゃ、エンゼルのウチをつきとめてきやがれ」
 ルミ子はニヤリと笑って、
「すみませんね。色仕掛でも、腕ッ節でも、とてもキッピイにかなわないのよ。助けてちょうだい。姐さん。ワアーン」
 掌に顔をおおい膝にうつぶして泣きマネをした。
「えイ。コイツ」
 ヤエ子はルミ子の髪の毛へ指を突ッこんでゴシャ/\やったが、あきらめて、ゴロンとひッくりかえった。
 ルミ子の言葉にも一理はあった。人間はどこで何をしている方が幸福だという定まった場所があるわけではない。同じ場所にいて幸福な人も、そうでない人も、無限の個人差があるだけのものだ。
 しかし、記代子が逃げだしてこないから、というだけの理由で、場所の適合性を信じるわけにはいかない。エンゼルの住居をつきとめて、記代子に会うことが何よりの急務であろう。
「ルミちゃん、ありがとう。おかげで、記代子さんの行方が知れて、ひと安心しました。エンゼルの住居をつきとめるのは、男の方が適していますね。女だけがエンゼルの手下と仲良くなれるわけじゃないから」
 放二は笑った。なんでもないことだ。今までの雲をつかむような捜査のマヌケさ加減にくらべれば。ホシはハッキリしたのだから。気がかりなのは、いつまで持つか分らない健康だけだが、愚連隊の一撃を避けることができれば、記代子と会うまで持たせる見込みはあるだろう。
「そう」
 ルミ子はなんでもない風にうなずいた。しかし心中では、明日中には是が非でも自分がつきとめなければ、と思った。放二を捜しにやることが気がかりでたまらなかったからである。

       九

 放二は新宿の街に出ている靴ミガキの中から、知り合いのジイサンをさがしだした。このジイサンは放二の付近から通っているらしく、例のオデン屋で時々一しょになる仲間であった。
「私ゃ愚連隊のことは知らな
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