姿で。
長平がおどろくヒマもなく三たび電燈が消えた。再び下座の奥手をてらす者がある。女の脚がてらされている。股へ。下腹部へ。全裸である。小柄で、ふとった女。せつ子でもストリップの女でもない。全身がうつった。肩と腕に数匹の蛇がまきついていた。
九
蛇姫のショウが終って、皎々と電燈がついた。蛇姫も洋装の一人であったらしい。ストリップの女と蛇姫が居なくなって、洋装は一人になっている。
「皆さん、お酌よ」
せつ子は一同に命じた。
「これからは無礼講よ」
と、せつ子は一同に笑いかけて、
「先生。あとに残ったのは、みんな芸なし猿なんです」
「あら、ひどいわねえ。芸者はあんな柄のわるい、ストリップなんて、できないわよ」
と、婆さん芸者がシナをつくって長平にナガシ目をくれると、
「お蝶ちゃん。芸者のストリップおやり。浅い川よ。私、三味線ひくわよ、お姐ちゃアん! 三味線、もっといでえ!」
年増芸者が、たいへんなシャガレ声。
それをきくと、芸者たちの目が光った。たちまち一同がひしめくように、
「そうよ。お蝶ちゃん。浅い川よ。いいわねえ。すごいわねえ。可愛いわねえ。色ッぽいわねえ」
お蝶ちゃんとよばれた可愛い半玉は長平の隣に座をしめていたが、真ッ赤になって、うつむいた。誰に助けをもとめようかと迷ったすえ、おずおずと長平によりそって、訴えるように顔を見あげた。絵からぬけでたような顔。羞恥に真ッ赤に燃えている。切れの長い目に熱気がこもり、感情にうるんでいるのである。
「アラ、色ッぽいわねえ。お蝶ちゃん」
「旦那ア。やけるわよう」
「あの目。たまらないわねえ。男殺しイ。子供のくせに。すえが思いやられるわよう」
キャッ、キャッ、と大変なさわぎ。お蝶は耳の附根まで真ッ赤にそまり、コチコチに身動きができなくなって、長平によりそったまま、なやましい目を伏せたり、上げたりしている。
「いいわよ。お蝶ちゃん。覚えといで」
と、婆さん芸者はお蝶をにらんでおいて、年増たちに、
「じゃ、あんた方、芸をだしなさい。踊りがいいわ。槍さびがいいわね」
四人の年増が立ちあがる。婆さんが三味をひこうとすると、洋装の若いのがツと立って、
「私がひくわ」
と三味線をうけとる。すると年増の一人が、
「そう、そう。夢ちゃんの糸がいいわ」
「ひどいわねえ」
婆さん芸者は怒って睨む。夢子の
前へ
次へ
全199ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング