もさうは身体がつゞかないよ、すると牧野信一が我が意を得たりとカラ/\と笑ひ、同感だ、うちの女房もさうなんだ、――とみゑさん、ごめんなさい、私はあんたを辱めてゐるのではないのです。どうして私があなたを辱め得ませうか。あなたは病みつかれ、然し、肉慾のかたまりで、遊びがいのちの火であつた。その悲しいいのちを正しい言葉で表した。遊びたはむれる肉体は、あなたのみではありません。あらゆる人間が、あらゆる人間の肉体が、又、魂が、さうなのです。あらゆる人間が遊んでゐます。そしてナマ半可な悟り方だの憎み方だのしてゐます。あなたはいのちを賭けたゞけだ。それにしても、あなたは世界にいくつもないなんと美しい言葉を生みだしたのだらう。
私は創元社の編輯長だつた岡村政司君に会つたとき、「春日」に就て多々弁じて、創元選書へ入れるやうに大いにすゝめた。岡村君も大いに食指を動かした様子であつたが、それから一週間ほど後に岡村君は徴用されてセンバンにすがりつく職工になり、まもなく東京はつぶされ、焼け野原になつてしまつた。
私は然し「ひとりごと」のやうなものは好きではない。私はむかし「薔薇は生きてる」といふ少女の書いた
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