机と布団と女
坂口安吾
小説新潮の新年号に、林忠彦の撮影した私の二年ほど掃除をしたことのない書斎の写真が載ったから、行く先々で、あの部屋のことをきかれて、うるさい。しょっちゅうウチへ遊びにきていた人々も、あの部屋を知ってる人はないのだから、ほんとに在るんですか、見せて下さい、と云う。見世物じゃないよ。
林忠彦は私と数年来の飲み仲間で、彼は銀座のルパンという酒場を事務所代りにしているから、そこで飲む私と自然カンタン相照らした次第で、このルパンでも、彼は四五枚、私を撮《うつ》した筈である。小説新潮の太宰治の酔っ払った写真もこゝで撮したものだ。
ルパンで撮した私の四五枚のうちに、一枚、凄い色男に出来上ったのがあり、全然別人の観があるから、私はこの上もなく喜んで、爾来この一枚をもって私の写真の決定版にするから、と林君にたのんで、たくさん焼増ししてもらった。
私は写真にうつされるのがキライである。とりすますから、いやだ。それで、新聞雑誌社から写真をうつさせてくれと来るたびに、イヤ、ちゃんと撮してあるから、それを配給致そう、と云って、例の色男を配給してやる仕組みにしている。
林忠彦は、
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