めき、さて、ある者は逆立ちし、またある者は矢庭に人の股倉をくぐりぬければ、またある者はあほむけにでんぐり返つて、両足をばたばた振つた。
異様なこととは言ひながら、その可笑しさに堪へがたく、旅人は透見の自分も打忘れて、思はず笑声をもらした。
どよめきは光と共に掻消え、あとは真の闇ばかり。ただ自らの笑声のみ妖しく耳にたつことを知つたとき、むんずと組みついた者のために、旅人はすんでに捩ぢ伏せられるところであつた。必死の力でふりほどき、逃れようと焦つてみたが、絡みつく者は更に倍する怪力であつた。精根つきはてて抵抗の気力を失つたとき、組みしかれた旅人は、毛だらけの脚が肩にまたがり、その両股に力をこめて、首をしめつけてくることを知つた。
ふと気がつけば、草庵の外に横たはり、露を受け、早朝の天日に暴《さら》されてゐる自分の姿を見出した。
村人が寄り集ひ、草庵を取毀《とりこわ》したところ、仏壇の下に当つた縁下に、大きな獣骨を発見した。片てのひらの白骨に朱の花の字がしみついてゐた。
村人は憐んで塚を立て、周囲に数多《あまた》の桜樹を植ゑた。これを花塚と称んださうだが、春めぐり桜に花の開く毎に
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