向だね」
 と、ひやかしてやったが、彼はムッとして、とりあわない。
「これは何物の石像です?」
「カンゾオ!」
「カンゾオ?」
「しかり!」
「ケスク・スラ・シニヒ?」(それは何を意味するや)
「スラ・シニヒ・モツ!」(それはモツを意味する)
「モツ?」
「モツ! セタジール(スナワチ)レバー!」
「アッ。ヤキトリ! 肝臓!」
「セッサ!」(しかり!)
 シュルレアリズムのウンチクも及ばないのは仕方がない。探偵小説を書いたこともあるが、解剖を見学したこともなく、ハズカシナガラ、肝臓の形を知らない。しかし、直径一間もある石の肝臓をつくる男はキチガイだ。
「肝臓はこんな形をしているもんかね」
「アイ・ドント・ノオ!」
「アレレ。コレ、肝臓デワ、アリマセンカ」
「余は胃や腸や心臓を見て、これを造った。余の見た書物に肝臓の絵がなかったのである」
「フウム。ききしにまさる天才であるよ。ヤキトリ屋の置物かな。看板にしては入口をふさいでしまうし、庭の石かな。しかし、ヤキトリ屋というものは小ヂンマリとしたもので、なんしろ目の前で焼いて食わせる店だから、庭はないはずだがな」
「シッ!」
 彼は私を制した
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