、伊豆の辺地、曾我物語発祥の地、久須美荘園の故地のみは、自らの必死の力闘によって、この病菌の息の根を絶たんものを! 先生はケナゲにも、かく念じ、かく闘っていたのだ。
 しかるに、なんぞや。
 先生はこう考えた。これはイカンぞ。ひょッとすると、悪魔がこの地に住みついたぞ。オレが呼吸器病のために必死に闘っているのを、からかっているのだ。
 イヤ、イヤ。悪魔などを考えてはならぬ。これは神の試錬であろう。先生は心をとり直して、こう考え直した。
 しかし、神は一介の町医者たる赤城風雨ごとき者に、何を試錬したもうのであろうか。自分は一介の足の医者として全うしたいと希うほかには何も望んではいないはずだ。名声も地位も富も望んではいない。病める者が貧しければ、風雨にめげず三年五年往診をつづけて、一文の料金を得たこともない。むしろ投薬の度に※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]卵や新鮮な果実や魚などをひそかに添えて平癒の早からんことのみを祈っていたはずであった。神はこれを偽善として憎みたもうのであろうか。
 一介の足の医者として全うしたいと志をたてた以上は、今さら研究室へ戻ったところで何になろう。そこ
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