それは鯨が常にイワシだけ追っかけ、甚平ザメがマグロを専門に食うのと同じようなものだ。一言にして云えば、彼らは、どこまでも、利巧で、温和で、心の正しい魚にほかならないのである。
 漁師町のこの性格を知ることは、これから私が語る話に深い関係があるのである。彼らは心が正しいから、心のよこしまな人とつきあうことができる。どんな善良な人とでも、どんな邪悪な人とでも、つきあうことができるのである。
 まったく伊東市は不思議な町だ。温泉町と漁師町と、まったく性格のアベコベのものが一しょになって、とにかく調和しているのである。温泉町では名士だの富豪だのと俗世の評価を後生大事に大さわぎをするが、漁師町では人間族があるだけのことだ。温泉町では戦災で日本中に家と部屋が不足しているところから、五ツ間ぐらいの家が二百万円だったり、二間の貸部屋が、七千円、一万円などゝ吹っかけられたりするが、烏賊虎さんの二階や離れには、どこの何兵衛だかハッキリしない他国の人が全然タダで部屋をかりているのである。部屋があいているから、タダで貸してやる。無い部屋をムリして貸してやるわけではないからタダだというだけのことで、烏賊虎さんの
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