庵の考へでは自分の親類筋の一人のやうに見当をつけた形跡がある。伊東伴作に女の身柄を預けておくぶんには、女の身体が汚されるといふ心配はまづないやうに計算したのではないだらうか? 女を連れてくる早々、男と女のことだから自然に二人の関係が身体のことに進んでみてもやむを得ないことぢやないかと無理なくらゐ言ひ強めたのも、今となつて考へてみると、つまりお前にはさういふことができないのだと多寡をくくつて冷やかしてゐた文句のやうにとれないこともないのであつた。多寡をくくつて冷やかすといふほど露骨なものではないにしても、肉体の交渉をおよそなんでもないことのやうに言ひ強めた心理の底には、逆に肉体の交渉が紅庵にとつては最大の関心事であつたことを示すところのものがあると解釈しても不当のやうには見えなかつた。さういふ風に考へてみると、毎日夜がくるたびに伴作を蕗子の部屋へ残しておいて、自分は甚だ気を利かしたやうな勿体ぶつた様子をしながら、そのくせ案外うろたへ気味で帰つていつた、紅庵の姿を思ひだすと、さういふ姿の半分くらゐが例の通り半ば意識し計算した身構えではあるにしても、計算をはみだしたところにこの男の全悲劇が錯
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