ていることも事実であるし、天性血を好み、闘争を好み、寄らば斬ろうと待ち構えているものだ。男子の剣術に於ては、刀をヤッとふり下せば頭をきろうとするにきまっている。頭を用心すればタクサンなのである。女の剣術はそんなものではないですぞ。ヤッと頭を斬る如くにして足を払っているかも知れぬ。否、剣が斬る、同時に、彼女の足は諸君の睾丸を蹴あげ、口中から針がとびだして目玉を突いているのである。鎌倉四十七士ごとき、とうてい敵ではない。諸士が血迷うのは、敵を知らざるものであり、又、大義に添うものでもない。
諸士が親友の霊を慰めようと思うなら、由起しげ子を鎌倉の地に招待し、禅僧が祖師を敬する如くに敬拝して盛宴をはるのである。たぶん彼女は怒って敵地へ来ようとしないに相違ないが、諸士はそれによって敬拝の念を失ってはならぬ。毎日々々一人ずつ、彼女がついに死に至るまで、招待の使者に立って、むなしく断わられて帰るのである。一代にしてならずんば、子孫に志をつがしめよ。彼女の死に至って止む。その時に至って諸士は気がつくはずだ。円覚寺で何日坐ってもどうにもならなかったのに、どうやら自分が竜になったらしいということに。云う
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