く島もないムザンな叔母が鬼に見えたかも知れないが、女主人公は酷薄ムザンな自分には気がつかない。そして、自分の頼みに背をむけ、妙な笑いでごまかした警視総監の冷酷なのを大そう怒っているのである。しかし、警視総監の身にも「両手に二ツも荷物を持ったことはない」という理由はあるだろうし、イヤ、両手に二ツ荷物を持ったことがないという理由ぐらいでクルリと背をむけはしないだろう。
この小説で最も生き生きと私の目をうったものは、警視総監の笑いではない。両手に二ツも荷はもてない、とセムシの姪にクルリと背を向けて無言で立ち去った女主人公の姿だ。ここだけは生きている。作者がその冷酷ムザンなのを自覚せず、意図をハミだして生れた箇所であるために、イノチがこもって、光りかがやいているようである。その情景は目ざましいほど目にしみる。
自分のことはタナにあげて人のことだけ腹をたてるということは、異常というよりも、平凡なことかも知れない。ごく有りふれている。ワガママだ。しかし、利口なことではない。女は、イヤ、人間は、ワガママのために、美しく、立派に見られることもある。利口であるために、嫌われることもある。恋愛感情とい
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