、一昼夜ぐらい吐き苦しまなければならない。吐き気があまりひどいので、いつも医師が呆れるのである。だから、万策つきた時でないと、モヒを打ってもらわないようにしているのである。
 痛みはひどかった。七転八倒というほどではないが、エビなりに身をまげて、自然に唸ってしまう程度である。モヒを打ってもらうべき場合であったが、あいにく、新聞小説がある。注射で痛みをとめてもらうと、眠ってしまうし、目が覚めたあとでは吐き苦しんで、新聞小説が書けなくなる。仕方がないから、売薬で激痛を殺しながら、仕事をつづけた。これが、よくなかった。
 朝方、新聞小説一回分書きあげると、胃の痛みは一応おさまったように見えるが、実は大爆発のあとの火山と同じようで、表面に噴煙は立たないが、火口の底に熔岩がプスプス紋状をえがいてガスをふいているのに似ている。まったく火山をだいでいるのと異ならない。薄氷をふむ思いである。身体の屈折によほど気をつけないと、いきなりグッと痛んできそうで、それ以上机に向っていられないから、新潮の原稿はカンベンしてもらうことにしようと、東京へ使いをやった。
 しかし、カンベンしてくれない。それから三日すぎ
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