うになったが、部屋の中で靴をはいて纏足の女のような足どりで、壁づたいに一周したり、夜更けに靴をだきしめて眠っているのを見ると、小さな願いの哀れさに打たれもしたが、それに負けてはいけないのだ、という声もききつづけた。
しかし、こういう偶然を機会に、女房はズルズルと私の家に住みつくことゝなったのである。
私は、しかし、不満ではなかったと言えよう。彼女の魂は比類なく寛大で、何ものに対しても、悪意が希薄であった。私ひとりに対してなら、私は苦痛を感じ、その偏った愛情を憎んだであろうが、他の多くのものにも善意と愛情にみちているので、身辺にこのような素直な魂を見出すことは、時々、私にとっては救いであった。
私のようなアマノジャクが、一人の女と一しょに住んで、欠点よりも、美点に多く注意をひかれて、ともかく不満よりも満足多く暮すことができたというのは、珍しいことかも知れない。
女房は遊び好きで、ハデなことが好きであったが、私に対しては献身的であった。ふだんは私にまかせきって、たよりなく遊びふけっているが、私が病気になったりすると、立派に義務を果し、私を看病するために、覚醒剤をのんで、数日つききっ
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