に僕は人にヤッツケられて腹を立てることは少い。編輯者諸君は僕が怒りんぼで、ヤッツケられると大憤慨、何を書くか知れないと考へてゐるやうだけれども、大間違ひです。僕自身は尊敬し、愛する人のみしかヤッツケない。僕が今までヤッツケた大部分は小林秀雄に就てです。僕は小林を尊敬してゐる。尊敬するとは、争ふことです。
花田清輝は「現代文学」の同人ではないが、時々書いてゐた。何《いず》れも立派な仕事であつた。
小説家には太宰治といふ才人があるが、いはば花田清輝は評論家のさういうタイプで、ダンディで才人だ。小説だと、まだ読者には分るけれども、評論となると却々《なかなか》分らないもので、たとへばポオの「ユウレカ」が日本に現れても、読者の大部分は相手にしないに相違ない。花田清輝はさういふ評論家です。
今度我観社といふところから「復興期の精神」といふ本をだした。マジメで意気で、類の少い名著なのだが、僕は然し、読者の多くは、ここに花田清輝のファンタジイを見るのみで、彼の傑れた生き方を見落してしまふのではないかと怖れる。彼の思想が、その誠実な生き方に裏書きされてゐることを読み落すのではないかと想像する。この
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