また試合を申し込んで、これも惨敗に終ったのである。
「ウーム。残念千万だ。憎ッくい奴は房吉。是が非でも奴めを打ち倒さなくては気がすまないが、オレ一人ではダメらしいから、江戸の大先生に御援助をたのもう」
「それがよろしゅうございます。大先生にたのんで打ち殺してもらいましょう」
 使者がミヤゲ物を山とつんで江戸表へ立ち、山崎孫七郎の出馬を乞うた。
「法神流の房吉か」
「ヘエ、左様で」
「それは容易ならぬ相手だぞ。拙者は試合を致さなかったが、彼に立ち向って勝った者は江戸にはおらぬ」
「それは本当の話で」
「ま。仕方がない。伊之吉の頼みとあれば聞き入れてつかわすが、薗原村に鉄砲はあるか」
「それはもう山中は野良同様に猟が商売ですから、鉄砲はどこの家にもあります」
「それならば安心だ」
 腕のたつ高弟十数名をひきつれて伊之吉のもとに到着した。剣のほかに弓、槍、ナギナタに腕のたつ者を選んでつれてきたのであるが、伊之吉方からは鉄砲に熟練の者十数名を選び集めて合計三十余名、これだけの人数で房吉を討ちとる策をたてた。
 房吉の家を訪れて試合を申しこんだところが、当日房吉は女房同行で湯治にでており、尚当分
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