た。
留守をまもっていた儀八と太助は彼が村から連れてきた高弟で、師範代であった。
「何者がどういう遺恨で斬りかかったのであろうかなア」
「それは先生が御存知ないだけで、当然こんなことがあるだろうと世間では噂していたほどですよ。江戸の剣術使いは負けた恨みでみんなが先生に一太刀ずつ浴びせたがっているそうですよ」
「それは物騒だな。江戸というところも案外なところだ。教えを乞うほどの大先生がいるかと思ったに、まるでもう子供のような剣術使いばかりでアキアキした。その上恨まれては話にならない。オレはもう村へ帰ろうと思う」
「そうなさいまし。江戸のお弟子はダラシのないのばかりだから、私たち二人でけっこう務まりますから」
「その通りだ。江戸の剣術師範ならお前らで充分だな。それではよろしく頼むぞ」
あとを儀八と太助にまかせて、房吉は山へ戻った。そして追貝の海蔵寺と平川村の明覚院に道場を構え、星野作左衛門の娘をめとって定住した。
★
薗原村の庄屋に中沢伊之吉という剣術使いがあった。この山中では名代の富豪であるが、若い時に江戸へでて、浅草田原町に道場をひらく神道一心流の剣客山崎
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