ダムの底に沈もうとしている藤原などという部落は特に剣のさかんだったところだが、言葉なぞも一風変っているそうだ。
沼田から尾瀬沼の方へ行く途中に追貝(オッカイ)という里がある。赤城山と武尊山にはさまれた山中の里であるが、この山中ではこの里が中心のようになっている。
いつの頃からか追貝に風の如くに現われて住みついた山男があった。剣を使うと、余りにも強い。村民すべて腕に覚えがあるから、相手の強さが身にしみて分るのである。しかも学識深く、オランダの医学に通じて仁術をほどこし、人格は神の如くに高潔であった。ただ時々行方不明になる。そのとき彼は附近の山中にこもって大自然を相手に剣技を錬磨しているのであるが、その姿は阿修羅もかくやと思われ、彼の叫びをきくと猛獣も急いで姿を消したと伝えられている。
彼の名は楳本《うめもと》法神。金沢の人。人よんで今牛若という。十五にして富樫白生流の奥義をきわめ、家出して山中に入り剣技をみがいた。人体あっての剣技であるから、その人体を究めるために長崎にでてオランダ医学を学び、遂には術を求めて支那に渡り、独得の剣技を自得してこれを法神流と称した。諸国の剣客を訪うて技
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