花火
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)幇間《ほうかん》
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私はミン平が皮のジャムパーを着てやつてきた時には、をかしくて困つた。似合はなすぎるのだ。ミン平も、いかにも全身これ窮屈です、といふ様子で、てれきつてゐるから、尚へんだ。
「てれるから変なのだよ。気取つてごらん。ねえ、胸をそらして威張るのよ」
「やだなあ。小学校の時から胸をそらした覚えがないんだよ、オレは」
このジャムパーは私が昨日散歩の道でふと目にとめると、むらむらその気になつてしまつて、散々ねぎつて(但し時間的に)買つて、彼の宿へ届けて、今度くるとき着ていらつしやい、と置手紙を残してきたのだ。
まつたくミン平は何を着ても似合はないやうだ。この男の取柄といふのは、さういふところにあるやうだ。
よく見ると、色男なのだ。いつもヨレヨレのブルースに、大きなボヘミアンネクタイをブラつかせてゐる。モジャモジャ頭にパイプをくはへたり手に持つたり、煙のでゝゐることはめつたにない。見るからに、みすぼらしい感じなのだが、よく見ると、可愛らしい。つまり、幼い感じが残つてゐる。むしろ幼さが、全部
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