、一ツお力添えを願いたい」
「それはお易いこと、さッそく御隠居をなだめて差しあげましょう」
藤兵衛は気軽に引き受けて飼い馴した鼠をつれて来てくれました。
[#5字下げ]恋の文づかい[#「恋の文づかい」は中見出し]
大晦日ですから人通りは絶えませんが、おいおい夜もふけております。ようやく伊勢屋へ戻ってみますと、煤はらいもすみ、お風呂も落して正月を待つばかりですが、思いをかけた銀包みがせっかく現れても、頭の黒い鼠どもと同居では隠居はとても寝つかれませんし、あらぬ疑いをかけられた一同は気持よく正月も迎えられません。そこへ藤兵衛が博士の鼠をつれて来てくれたから、蘇生の思いを致しました。
「一同はこッちの隅にかたまって、勝手なお喋りなぞしちゃいけない。学のある鼠サマだから癇癖が強いかも知れないよ。婆さんをよんでおいで」
一同そろったところで、藤兵衛が鼠をカゴから出しまして芸づくしをやります。
「東西、東西。ここもと御覧に入れまするは恋の文づかい。とつおいつ恋の闇路は思案にくれたる若衆の思いのたけをしたためましたる手紙をくわえて恋の文づかい、首尾よく演じましたるときは御手拍子御カッサイ」
前へ
次へ
全16ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング