のです。ゆるして下さい」
 病人は至って無表情であった。先生の頭はすでに錯乱していたのである。先生の頭に、どういう幻想が起ったのか、誰にも分らない。
 然し、先生は手を握る一人の女を意識したことは、たしかであった。そして、先生は、はげしくもとめ、にじりよる様子であった。
 先生の腕は女の首をかゝえた。すると、にわかに狂気の激情がひらめいた。先生は女の首をひきよせ、接吻しようと唇をさがした。
 女はキャッと小さく叫んで顔をそむけたが、つゞいて先生の一方の手が、執拗なうごめきで女の腰を上下し、やがてそれが股間へのびて行くことを知ると、女は先生の意志をさとって、キャーという爆発的な悲鳴をあげて身をひいた。然し、女の首にまきついた先生の腕の力は必死であった。先生は女の悲鳴にひきずられて、ズルズルとのびたが、まきつけた腕は放さなかった。
 先生は尚も女をひきよせようと焦った。二人の力の平衡によって、力のこもった、然し妙な静止状態がしばらくつゞいた。
 先生の口から、ウン、という呻きがもれた。そして、それが最後であった。次第に先生の力がゆるんだ。そして、先生は、死んでいた。
 先生の腕をほぐして首
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