味覚に端を発していながらも、結局は特攻隊と同じような、支離滅裂な亢奮と絶望に帰一するものらしい。
 戸口をくゞる時から、梅木先生の覚悟はたゞ事ではなかった。逆上、それから、混乱だ。
 けれども、店内は、意外や、あたりまえの店内の風景であった。つまり、昔、先生も記憶にある支那ソバ屋の風景だ。三組の客がいる。奇妙に、みんな女である。一組は女学校をでて間もないような三人づれ、一組は、ダンサアとでもいうような二人づれ。あとの一組は四人づれで、これも女学校を卒業したて、というような年頃だ。みんな各々のテーブルで、支那ソバを食べたり、キャア/\笑いさゞめいたり昔とそっくりで、一向に自粛しているところはない。
 戦争前の記憶の風景と同じものに接して、先生は落着いたり、なつかしい思いに打たれたりせず、まったく敵地に至った思い、全然アガッて、意識不明にちかい大混乱におちいった。
 ともかく、あいたテーブルにたどりついてこしかける。
 すると、キャア/\笑いさゞめいていた三人組の一人がブラリと立ちあがって、先生のテーブルの前に立ち、先生をジッと睨みつけるのである。
 先生は声がでなかった。恐怖のために、心
前へ 次へ
全23ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング