って、小さな丘の陰、こんなところに道があったかと思うようなところで街道をそれる。するとキレイな川が流れていて、その川の向う側が馬庭なのだ。竹ヤブが多い。
道場の門をくぐると村の子供たちが群れている。そして門内にアメ屋、フーセン屋、オデン屋、本屋、オモチャ屋など七ツ八ツの露店が繁昌しているのである。全然村のお祭りである。道場びらきなぞという厳めしさとは全く縁のない村祭りの風景であった。それも門前でなしに門内に店が並んでいるのだから、田舎の子供の園遊会のようなものだ。道場がせまいので、庭で武技を行うのである。
念流の伝授以来二十四代もうちつづいて、里人すべてを門弟にしている旧家だから、大家族、大教祖の大邸宅を想像するのは当然だが、立派なのは道場だけで、実に質素なただの百姓屋である。ただの中百姓屋だ。
何百年の武の伝統と里人すべての尊敬をうけながら、終始一貫里人と同じ小さな百姓屋にただの百姓ぐらしをしてきたとは痛快じゃないか。これこそは馬庭念流というものの真骨頂であろう。まさに夢の里だ。道場以外は百姓用のものばかりで、どこにも武張ったところがなく、威厳を見せているところもない。痛快なほ
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