法は類がなかろう。
弟子が打ちこむと、先生がうけとめて、打ちこんだ木刀をさらにグッと押させる。打ちこむごとにこれをやらせる。打ちおろした力の強さ、押しつける力の強さをはかって上達を見わけるのだが、打ち下した木刀をさらに力いっぱい押しつける稽古など、真剣専門の稽古でなくて何であろうか。竹刀でパチパチなぐりッこの他の剣術とは類がちがうのだ。だから、高弟二名が真剣をふるって行う型は最も見事である。
江戸のころ、剣術使いをヤットー使いと云ったものだが、馬庭では今でもヤットーというカケ声を用いている。ヤットー。ヤヤヤ、トトトー。エー。オー。実戦さながらに勇ましい。面小手も昔のままの珍妙なもので、袴も普通の袴をつけ一々モモダチをとってから木刀を構える。試合がすんで礼を終えて後に至っても油断しない。自席に戻りつくまでギロリと目玉を光らせて敵の卑劣な攻撃にそなえていなければならないのである。これが馬庭念流の特別の心得で、これを「残心」と称し、残心を忘れて試合終了後にポカリとやられても、やられた方が未熟者だということになるのである。これも実用専門である。徹底的に実用一点ばりの剣法を農民が伝えてきたの
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