けの必要があってのことだから、声を判断に利用するのはその程度にすぎないけれども、職業によって利用するにはたしかに声は大切で、易断の方では私が声を利用するのと別な角度や方向があるに相違ないことは想像ができる。
声をききたいという桜井さんは、益々易断の合理主義者と云うべきかも知れない。銀座にふさわしい易者で、文化人に好評を博す素地ある人であろう。
しかし、その人の一生を本当にうごかすものは性格ではなくて、環境や偶然でもあるし、又、さらに、意志や思想であるが、それも偶然や環境等の諸条件の支配をまぬがれることはできない。
易断に何が一番必要かと云えば、過去をよく当てるというのは単に易断の前座的なものにすぎないもので、さりとて、その未来を当てるための占いは健全で合理的な易者のつつしむところと致されねばなりますまい。
目下沈んだり隠れたりしている彼の長所をかきたて、彼のより良くより強い信念とか、逞しい意志などをひきだすエニシとなり、彼のより良い人生のために職業上の技術と善意とを役立ててやることではないでしょうか。
あなたのような合理的で健全な易者は未来を占うことの愚かしさを知り、人々のよりよい未来のために正しく諸条件を判断してやり勇気を与えてやるために職業上の技術をつくしてやるべきでしょう。
その人の意志と諸条件への正しい判断によって、未来はいくらでも変るものです。そうではないでしょうか。とにかくあなたは健全な易者ですよ。
底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房
1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行
底本の親本:「オール読物 第六巻第一二号」
1951(昭和26)年12月1日発行
初出:「オール読物 第六巻第一二号」
1951(昭和26)年12月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※初出編集時に撮影された写真は、旧著作権法の規定により、保護期間を過ぎていると判断し、収録しました。
入力:tatsuki
校正:深津辰男・美智子
2010年1月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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