さに宿命のようです。
菊乃さんは音もなく影のように静かに自ら永遠に去ったけれども、ガラッ八の私は喚きちらすように、叫びたいよ。菊乃は満足していた、死ぬ理由は一ツもないとは何事ですか。賤の女に死すとも瞑すべき名誉を与えたという一言が菊乃さんの悲劇の真相をすべて語っているのが分らんのですか。分らんのか。「賤の女」を女房にした「不遜」な罪が分らんのですか。分らなくて、すむことですか。
人間の倫理は「己が罪」というところから始まったし、そうでなければならんもんだが、東洋の学問は王サマの弁護のために論理が始まったようなもんだから、分らんのは仕方がないが。
ああ、暗い哉。東洋よ。暗夜、いずこへ行くか。
オレは同行したくないよ。
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(この一文はもっぱら週刊朝日八月十二日号の塩谷氏の手記「宿命」をもとに書きました。その手記にははるかに多くの本心が語られていると見たからです)
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底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房
1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行
底本の親本:「オール読物 第六巻第一〇号」
1951(昭和26)年1
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