安吾人生案内
その六 暗い哉 東洋よ
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)抑々《そもそも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
−−
奈汝何 節山居士
[#ここから1字下げ]
抑々《そもそも》男女室に居るは人の大倫であり、鰥寡《かんか》孤独は四海の窮民である。天下に窮民なく、人々家庭の楽あるは太平の恵沢である。家に良妻ある程幸福はない。私の前妻節子は佐原伊能氏の娘で、実に貞淑であり、私の成功は一にその内助に依り、その上二男三女を設けて立派に嫁婚を了えた。憾《うら》むらくは金婚式を拳ぐるに至らず、私の為に末期の水を取ると臨終の際まで言いつゞけて遂に亡くなった。晩香はこの節子の果たし得なかった役割を演じて呉れるべく、突如として現われたので、私の晩年は御蔭で幸福であった。私は継配として迎える以上、正式に結婚するつもりであったが、入籍のことは晩香が固辞したのでそれに従った。晩香は己れを詐《いつわ》らず、極めて恭順な態度であったから、私の近親もよくその人となりを諒解し、一年の間には相親しむ様
次へ
全28ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング