りうるかのような、人生をこれ凸凹と観ずる境地に至りうるのである。人間の日常には、誰しもこれぐらいのユーモアはあるのですよ。特に大阪人には云うまでもないことで、この現実的に切迫したユーモアは大阪の労働者の巷々にあふれている性質のものですよ。だから、それは実に紙一枚の差で、ただ日常の精神にかえりさえすれば、なんのこともありやしない。ストリップみたいなもんナンボ見たかてアカンワ、と車券をビリッとちぎって、エイッとすて、なんとなくウラミを骨髄から外すぐらいの寛仁大度に日頃の心得なき方々ではない筈なのである。
 競輪雑誌の記事はたくまずして観衆全体に内在するユーモアを適切に描破しているではありませんか。
 競輪騒動も、内実はみんなこのようなもので、紙一枚の差で、むしろ愉しい遊びの雰囲気へひッくり返ることができる性質のものです。競輪をやってる者にはそれがよく分るのですよ。これをただ悪い一方に、放火傷害強盗殺人などと云う方がどうかしている。競輪人種という別のフテイなヤカラがいるわけではない。この理がお分りになれば、何を禁止するなどゝ騒ぐ必要もなく、人間の共同生活の前途は明るいものですよ。



底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房
   1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行
底本の親本:「オール読物 第六巻第九号」
   1951(昭和26)年9月1日発行
初出:「オール読物 第六巻第九号」
   1951(昭和26)年9月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:深津辰男・美智子
2009年10月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全23ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング