ことを知っているね、しかし、食べさせたい気持は分りますよ。それは実によく分るし、特においしいものを食べさせたい、今夜はこれ、明日はあれといろいろ考えもするだろうなア。しかし、実際に食べないという事実にゴツンとぶつかったら、泣きたくなりやしないか。私はハラハラするなア。要するに、実際人形に物を食べさせる本当の所作をするから、そういうやりきれないことが気にかかるんだね。
おいしい御馳走を作って、それをハシにはさんで人形の口まで持って行った場合に、その次に、それをどうするか、ということが実に実に気がかりだね。どこへどうしても始末がつかず、よくこの人は気ちがいにならないものだね。やりきれなくて、たまらなくなりやしないか。食べることができないのだもの。
五ツ六ツの女の子が、よく、そんな人形あそびをしてますね。お客に行ったり招いたりして人形に御馳走たべさせたりお風呂へ入れたりしていますね。子供があれで満足なのは分るね。ママゴトにすぎないのだから。
ところが、この婦人も、ママゴトにすぎないですね。それ以上のものは何もないです。人形とこの婦人の結びつきや生活ぶりは、ただ子供のママゴトと同じことで
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