だの神経の作用や構造やネジのグアイなどが複雑怪奇すぎるという意味です。
私が一ツ気に食わないのは、ちかごろ潜在意識ということで、人間の心をむやみやたらに割りきりすぎるということです。人間の心を潜在意識に還元すれば、いかにも単純なものですね。下世話に、人世万事、色と金だという。これは慾望の方ですね。このほかに名誉だの力、才能などというものが、からむ。潜在意識の場合も同様で、これをめぐって人間同志のマサツがある。潜在意識というものは、公式的にハッキリしたもので、公式は万人に通用し、ただその人の生活史とか環境というものによって、組合せや脚色がちがうというだけで、根本の公式は変りがない。
そこで、ちかごろのある派のお医者さんは、病人の潜在意識をひきだし、生活史や環境やマサツを調べあげて、いともアッサリと病因を割りきる。
なるほど、そういう場合もたしかにあるでしょう。人間には苦労のタネというものがある。暴飲暴食が胃病のモトと知りつつ暴飲暴食して胃病になるのと同じように、苦労のタネにクヨクヨ悩むのがいけないと知りつつ神経衰弱になるようなこともある。フロイドは病人の潜在意識をひきだし、それを病
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