がないが、酔っ払うと気が大きくなって、マチガイを仕でかす。主家の金を預ってるうちは一滴ものんではいけませんぞ、というような注意をうける。それでもダメなんだね。
 今も私の住む静岡県でミカンの集金人の行方が知れない。彼も出発に先立って、お前さんは酒が腹にはいるとガラリと変る人だから、人様の大金をあずかってるうちは一滴も飲まないように、というような注意をうけて出発している。彼がその夕刻横浜の集金先へ現れた時は、すでに相当の酒がはいってるらしく真ッ赤な顔をしていた。そしそカバンを叩いてここに百何十万円かはいってるんだと威勢のよい見得をきってみせた。そして汽車に乗りおくれちゃ大変だと急いで去ったがそれッきり行方が知れない。たぶん殺されたらしいと目下大々的に調査中だそうだ。
 結局酔って山賊に近づくことがマチガイなのだ。当人にも自業自得の責があることは確かであろう。しかし、当人の自業自得の責によって山賊の商法が合理化されることが有るべきではないね。しかし、現在の警察の取締りぶりには、酔っ払いの自業自得を認めるの余り、山賊の商法の方を合理的に考えすぎる傾きがあるようだ。飲んだくれの自業自得も仕方が
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