例は少からずあるだろうねえ。そして訴訟も起す分別なく涙をこらえている男女がタクサンいることだろう。そういうモロモロの場合のうちで、アロハ氏は別に女房をひッぱたいたわけでもなく、刃物をふりまわしたわけでもなく、さればとて独立の生活能力がないわけではなく、チャンと仕事は一人前で、女房の生計をも負担しているようであるから、哀れ悲しく無気力ではあるが、決して多くの落度する人間の部類にはいらないようだ。忍従したのは明らかに彼の方であった。
もしも私が判決を下すとすれば、訴訟費用は被告たる純粋理性的存在に負担させ、二ヶ月間の損害三万円のほかに、その二ヶ月間女房がアロハ氏に扶養せられた食いブチなにがし、小額といえども返還させて、被害者たるアロハ氏の不運なりし新婚生活の労に報いる一端としたいね。
さて、最後に残ったのが、結婚初夜に於ては男子は木石の如く処女を犯すべからず、これ争うべからざる衆知の事実なり云々という大文章の問題であるが、これは法律じゃア解けそうもないねえ。大岡越前かなんか粋な旦那がいて、原告のポケットの中へそッとチャタレイ夫人でも忍ばせてやるのがオチであろうが、すると忽ちどこからとも
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