たんです。
渋谷宇田川町、サロン春のマネージャーは語る
ボッたなんて、とんでもない。大体、あの人は風態がよくない。こんなところへ来るようなタイプではなかったようです。女給だって、引っぱっちゃ、いませんよ。あんな客は相手にしません、むこうから、「遊ばせてくれ」ともちかけてきたんです。だから、三十万もっているの何のと強がっていたんですが、どうも信用ができない。恐る恐る出してたほどです。それでもキャッチになるんですからね。街頭に立つのが、そも/\いけないというのです。
勘定はきちんとしています。それは公安委員会でお客も認めています。帰ると、その足で、交番へ行ったんですからね。卑怯なお客です。後味が悪いですよ。
近頃はタチの悪い客が多くなりましたよ。散々のんでから、「キャッチしたじゃないか、警察へ行こう」って調子、こっちは弱い立場ですからね。キャッチに出なければ、商売にならない状態なんです。しかし女給のすじはいゝんです。有夫が三割、未亡人が二割、あとは独身ですが親を養ったり、兄弟を学校へやったりする感心な人が多く、みんな生活のためですよ。悪どいことをするという話も聞かないではありませんが、よく/\のところです。
しかし、大体、新興喫茶で、女の子にサービスさせておきながら、ノミ屋なみの勘定ですまそうとする客はヤボですよ。あんな客はもうごめん、こり/″\ですよ、こんなにいためつけられちゃ。
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この話は、私は新聞でよんだ。雑報欄のような小さな欄にでた記事であったが、こういうバカげた話になると、われに神仏の加護があるのか、見逃さないからフシギだね。オールの記者も御同様と見えて、チャンと手記を持ってきました。
この話は身につまされるね。私に限ったことではないが、酔いどれどもは一読ゾッとわが身のごとく肝を冷やし、つづいてゲタゲタ笑いだすところであろう。オールの記者が身につまされて手記を持参した気持は大わかりというところである。
私もずいぶんこんなことをやった。酔っぱらって気が大きくなって、酒場へのりこんであれを飲めこれを食えというバカ騒ぎをやらかす。しかし私一人ということはなく、身辺に必ず二三誰かが一しょにいて、だれかが前後不覚からまぬかれているせいかも知れん。こう目の玉のとびでる大勘定をつきつけられたことはない。
しかし、一人で行くと、よ
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