いう大変な題名がついていましたネ。題名を見破ることは至難中の至難事である。
 題名だけを見て、絵を見ない方が、むしろ多くの美しいイマージュを描くことができる。絵を見るとナンセンスで、ただウンザリしてしまう。
「エピローグ」
 なんのエピローグだか分からないが、フロシキの模様にはやや手頃かも知れないという絵。
「神々の飜訳」
「こまった」(会話に非ず。どちらも題名也)
 イヤ、見せられる方がモットこまる。
「飛ぶ」
 なるほど、飛んでることだけは分る。
「着物だけは返して下さい」
 オレにたのんだってダメだ。そんなこと、この絵はたのんでやしないよ。題だけ勝手にたのんでやがる。メクラのフリをして、どうぞ一文という手はあるが、こッちはもッと悪質という絵。
「煙突食う魚」
「かまれた魚を呑む魚」
 見れば分らんことはない。因果物の見世物小屋の看板向き。
「田園交響楽」
 一人の老農夫の肩に女の子が乗っかってオッパイをだして手をひろげている。腰に猫がのッかり、その上にトンビだかタカがとまりその又頭に小鳥が一羽。イヤハヤ。ベエトオベンの音楽をきいて、芸術がどんなもんだか、考え直してくれないかな。

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