空中にとばせるために十尺四方も色をぬたくる必要があるか。空中はたしかに広いものであるが、一尺四方でも表現できるし、オッパイなんてものは、吊り鐘のように大きく書くものではないですよ。造化の神様が泣くと思うよ。
次に、いたずらに、不可解を狙う。コケオドシという教祖の手である。曰く言いがたし、この門をくぐる者には幸がある、という怪しき一手でもある。これを腕をくみ、小首をかしげて、神妙に対座して謎をとこうという書生がいるから、教祖は常によい商売なのである。
次に、在来のものを否定する。これぐらいカンタンな手はない。
私がせめて彼らに願うことは、ともかく実用品たれ、ということである。腰かけることのできるイス、物をつつめる一枚のフロシキをつくる方が、諸君の絵や彫刻よりもムダではない。
絵の感覚は似たようでも、もっぱら実用品の新案のために妙テコレンな、しかし熱心な工夫をこらしている花森安治の仕事の方が、私にはどれぐらい高尚に、又、大切に見えるか分らない。たとえ二科の教祖諸氏が彼を絵の素人とよぶにしても、私は彼を実用生活の芸術家とよび、諸氏を単なるニセモノ山師とよぶであろう。
底本:「坂
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