は女の子に二千円やって、千円でビール二本のんで、合計三千円。林芙美子、女の子に千円チップ。教育補充の美少年、二百円。彼はビール一本のみ、女の子は二百円しかとらなかった由。ハレムのビールは公定一本三百円、私のは五百円だが、奴め、二百円でのんで、手数料もとられなかったのである。
 今や、日本中のダンスホールというダンスホールは、みんな踊りが荒れて、猥雑、体をなさず、見るにたえないそうだ。
 ところが、東京パレスのホールの踊りは、抜群に美しく、いささかも荒れたところがない。楚々として、男女ともに、踊りは典雅そのものなのである。
 実に、当然すぎるね。荒れる必要がないのだ。チークダンスの必要がないのだもの。ちゃんとハレムへみちびかれる必然の運命にあるのだから。
 もしも諸君が、最も美しく洗練され、礼儀正しいダンスを知りたいと思ったら、東京パレスへ行ってみることだ。
 つまり、ここの恋人たちは、甚だ健全で、礼節正しいのである。ストリップが因果物だという意味が、又、他のダンスホールが持たざるものの哀れさに溢れているという意味が、まだ、おわかりにならないかな。
 持てる者は礼儀正しくなるものさ。
 難を云えば、踊る女は誰の目にも目立つのがほぼ同じいから、恋人がダブリ易いということだね。
 尚、前文中、田ンボのマンナカの一軒屋と書いたが、百軒屋ぐらいの一つであった。ゆうべ、もう一ッぺん行ったら、わかったのさ。



底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房
   1998(平成10)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第二八巻第一二号」
   1950(昭和25)年9月1日発行
初出:「文藝春秋 第二八巻第一二号」
   1950(昭和25)年9月1日発行
入力:tatsuki
校正:宮元淳一
2006年1月10日作成
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