でないことをようやく知ったのである。
★
熱海大火後まもなく福田恆存に会ったら、
「熱海の火事は見物に行ったろうね」
ときくから、
「行ったとも。タンノウしたね。翌日は足腰が痛んで不自由したぐらい歩きまわったよ」
「そいつは羨しいね、ぼくも知ってりゃ出かけたんだが、知らなかったもので、実に残念だった」
と、ひどく口惜しがっている。この虚弱児童のようなおとなしい人物が、意外にも逞しいヤジウマ根性であるから、
「君、そんなに火事が好きかい」
「あゝ。実に残念だったよ」
見あげたヤジウマ根性だと思って、私は大いに感服した。
私が精神病院へ入院したとき小林秀雄が鮒佐《ふなさ》の佃煮なんかをブラ下げて見舞いにきてくれたが、小林が私を見舞ってくれるようなイワレ、インネンは毛頭ないのである。これ実に彼のヤジウマ根性だ。精神病院へとじこめられた文士という動物を見物しておきたかったにすぎないのである。一しょに檻の中で酒をのみ、はじめはお光り様の悪口を云っていたが、酔いが廻るとほめはじめて、どうしても私と入れ代りに檻の中に残った方が適役のような言辞を喋りまくって戻っていっ
前へ
次へ
全39ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング