グルの夜景について、これ以上書く必要はないだろう。私が書いたのは夜景の一部にすぎないが、いくら書いても同じことだ。懐中電燈がパッと光ると、そこには必ずアレが行われているのだから。音もなく、光もなく。地上で、木の蔭で、塀際で。どこででも。
新宿の交番は多忙で、酔っ払いをめぐる事件の応接にテンテコマイをつづける。ところが上野の交番ときては、訪う人もなく、通りかかる人もない。夜間通行禁止だからである。そして交番は全然平和でノンビリしている。
しかし、もしも一足交番をでて懐中電燈をてらすなら、これ又、応接にイトマもない。とてもキリがないことになるから、ジャングルのシジマをソッとしておいて、より大いなる事件の突発にそなえているというわけだ。
しかし上野ジャングルの平和さから我々は一つの教訓を知ることができる。上野ジャングルの構成までには、ヤクザの組織、ヤクザ的ボスの手が殆ど加えられていない。
戦争の自然発生的な男女の落武者が、ジャングルに雑居してしまっただけだ。上野は異国であり、我々の生活から遠く離れたジャングルであるが、そして百鬼うごめく夜景にもかかわらず、百鬼のおのずからの自治によっ
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