大音響と共に内側へブッ倒れた。私は連夜徹夜しているから番犬のようなものだ。音響と同時に野球のバットと懐中電燈を握りしめて、とびだした。伊東で強盗なぞとはついぞ聞いたことがないのに、わが家を選んで現れるとは。しかし、心当りがないでもない。税務署が法外な税金をフッかけ、新聞がそれを書き立てたのが二三日前のことだからだ。知らない人は大金持だと思う。
外は皎々《こうこう》たる満月。懐中電燈がなんにもならない。こんな明るい晩の泥棒というのも奇妙だが、イロハ加留多にも月夜の泥棒があるぐらいだから、伊豆も伊東まで南下すると一世紀のヒラキがあって、泥棒もトンマだろうと心得なければならない。
とにかくサンタンたる現場だ。鍵をかけた筈の二枚のガラス戸が折り重って倒れている。内側の戸が外側に折り重っているのである。
戸外には十五|米《メートル》ぐらいの突風が吹きつけているが、キティ颱風《たいふう》を無事通過した窓が、満月の突風ぐらいでヒックリ返る筈がない。人為的なものだとテンから思いこんでいるから、来れ、税務署の怨霊。バットを小脇に、夜明けまで見張っていた。
隣家には伊東署の刑事部長が住んでいる。つ
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