貧困さが思いやられて哀れである。これはナホトカ組が祖国への敵前上陸を教育されているのと揆《き》を一にする絶対主義の教育であり、神がかりの教育でもある。教育された皇太子の罪ではない。この敗戦にこりもせず、まだこんな教育をする連中の度しがたい知性の低さが問題だ。
日本の今日の悲劇は、いわば天皇制のもたらした罪であるが、しかし、天皇制には罪があっても、天皇には罪がない。天皇制は彼が選んだものではなく、ただそのような偶像に教育されただけであった。
しかし、彼はともかく無条件降伏の断を下した。朕《ちん》の身はどのようになろうとも、と彼は叫んでいるではないか。そこに溢れている善意は尊い。天皇ほどではないにしても、偶像的に育てられた旧家の子供はたくさんいる。しかし、たとえ我が身はどうなろうとも、という善意をもって没落のシメククリをつけうる善良な人間がタクサンいるとは思われない。
恐らくヒロヒト天皇という偶像が、天皇の名に於て自分の意志を通したのは、この時が一度であったかも知れないが、これをもっと早い時期に主張するだけの決断と勇気があれば、彼は善良な人間であると同時に、さらに聡明な、と附け加えう
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