士が、なんで未明に家出する必要があるか、と疑えば、足りる。午前八時でも十時でも、買物に行ってきます、と云って家を出れば足ります。
未明五時十五分に家出して、墓前へぬかずく、それを追跡する記者がある、芝居じみたことをやるものだ。そんな危険をおかす必要は毛頭ない。ただ、政治的カラクリをのぞいては。
こんな人の理性をなめたことをやらず、真剣に、恋愛一途に没頭し、同じ家出をやるにしても、ミーちゃんハーちゃんと同じように、買い物に行ってきますと云って家出して、つつましく結婚していれば、どれぐらい素直で、人の反感を刺戟しなかったか知れないであろう。
連日にわたってフロシキ包みを持ちだして、ミーちゃんハーちゃんと同じことをやっていながら、家出という一事のみに、代議士なみの効果を利用し、午前五時、ヘッド・ライト、墓前、線香、このイヤミは、人間がその一途の恋に於て当然そうあるべき素直さを汚すこと万々である。
この茶番をマトモにとりあげて疑うことを知らない大新聞の推理力の不足さは決定的で、拙者の探偵小説でも読んで、大いに勉強することである。
御両氏が政治的に失脚することを怖れての努力は当然であるが、その方法に於て、理性の低さということは、ここでも見逃せない。恋愛というものは、恋愛に一途でありさえすれば、他のいかなるカラクリにも勝ること万々で、必ず人をうつ性質のものである。恋愛に一途であって、世の悪評をしりぞけることが出来なかったタメシはない。すてられた女房や亭主に対する同情よりも、一途の恋人の方が必ず世評に於ても勝つのである。
多少の道学者はすてられた女房や亭主に同情するが、ミーちゃんハーちゃんは常に恋人の味方であり、それがほゞ全般的な大衆の気分でもあること、古今東西、殆ど変りはない。
彼らがもし恋愛に一途であり、恋愛のためにすべてを怖れざるの勇気がありさえすれば、彼らは政治的にも救われたのだ。カラクリを弄する必要はない。人間万事、そうだ。事に処してそれに殉ずるのマゴコロがあれば、すべてに於て救われる。
大衆は正直であり、正義派だ。彼らはマゴコロに対しては常に味方で、一つのマゴコロを成就するために多少の罪を犯しても、マゴコロの純一なるによって他の罪を許してくれるほど寛大で、甘いのである。
この点に於て、御両氏は策をあやまっている。
御両氏の結婚を成就せしめんと努力した堤マサヨ代議士に至っては、さらにフンパンの至りで、文士と代議士では、考えること、為すこと、アベコベのようだ。私だったら、こういう友人の激励はゴメン蒙って、どうかお引きとり下さい、と頼む。
厳粛なる事実があったから結婚させた、という。そんなもの、有っても無くても、いいじゃないか。ボクらにとって、問題は、二人が結婚せずにいられないか、いられるか、結婚せずにすむなら、結婚する必要はないだけの話である。情熱の問題である。
厳粛な事実、とは何ですか。ニンシンのことですか。そんなものが結婚を余儀なくせしめる理由になるなら、すでに結婚して何人も子供を生んでいる先夫人の方が、より大きな厳粛な事実じゃないか。この女代議士は何を言うつもりなのだろう。
一時のアヤマリということがある。若気のアヤマチというが、年をとってもアヤマチは絶えないものだ。まして未婚の天光光氏がアヤマチを犯すのは有りがちで、フシギはないのである。
アヤマチは仕方がない。これを繰りかえさぬ分別が大切で、一度のアヤマチを生かして前途の指針の一つとし、二度と同じ愚を犯さぬように利用できれば、充分で、かかる工作を理性の力というのである。
ニンシンぐらい、何でもない。この結婚が不適当と分ったら、ニンシンぐらいにこだわらず、結婚をとりやめるのを理性といい、そこに進歩もあるのである。ニンシンにひきずられて、不適当と知りながら結婚するなどゝは、新派悲劇以前で、ヨタモノだったら、女をニンシンさせて抑えつけて、ゆすったりするが、理性ある人間の社会では、こんな悲劇はもう存在しない。ニンシンにひきずられて不適当な結婚をするよりも、私生児をかかえて不適当な結婚を避ける方が、どれぐらい理にかなっているか知れない。
だいたい女が不適当な結婚と知りながらニンシンにひきずられて結婚するのは、女に独立の生活が出来ないからで、男と結婚しなければ生きられず、又、私生児を抱えては他の男と結婚するチャンスもない。そういう場合の悲劇だ。
天光光氏の場合には、あてはまらない。もし私生児を抱えて結婚しないことが不都合であるとすれば、政治的な意味に於てで、選挙対策として不都合だというに尽きるであろう。
生活の手段としての結婚はほゞ絶対的なものであるが、選挙対策としてならば、結婚は必ずしも絶対的のものではない。
堤氏の言う如く、この結婚はまちがって
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