なかった。
 害のひどいのは催眠薬だ。

          ★

 私はアドルムという薬をのんで、ひどく中毒したが、なぜアドルムを用いたかというと、いろいろの売薬をのんでみて、結局これが当時としては一番きいたからである。今日では、もっと強烈なのがあるらしいが、私はアドルム中毒でこりて、ほかの素性の正しい粉末催眠薬を三種類用いて、みんな、また、中毒した。
 現在日本の産業界はまだ常態ではないので、みんな仕事に手をぬいている。当然除去しうる副作用の成分を除去するだけの良心的な作業を怠っているわけで、それで中毒を起し易いのだそうだ。しかし、当今は乱世で、副作用などはどうでもよく、手ッ取りばやく利けばいい、というお客の要求が多いから、益々、副作用を主成分にしたような催眠薬が現れる。一粒のむと、トタンに酩酊状態におちいるような魔法の薬が現れるのである。
 人はなぜ催眠薬をのむか、といえば、このバカヤロー、ねむるためにきまッてらい、と叱られるだろうが、当今は乱世だから、看板通りにいかない。
 私の場合は覚醒剤をのんで仕事して、ねむれなくて(疲労が激しくなってアルコールだけでは眠れなくなった)仕方
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