、患者はつつましく生活しており、麻薬中毒や宗教中毒のような騒音はすくない。麻薬中毒も幻視幻聴が起きるが、宗教中毒もそうである。
 私は日本人は特に精神病の発病し易い傾向にある人種だと思うが、どうだろう。
 私は東大神経科へ入院しているとき、散歩を許されて、ほかに行く場所もないので、再三後楽園へ野球を見物に行った。私は長蛇の列にまじって行列しながら、オレが精神病者であることはハッキリしているが、ほかの連中もそうなんじゃないかな、この連中はその自覚がないのだから何をするか見当がつかないし、薄気味わるくて困った。
 私は野球を自分で遊ぶことは楽しいが、見るのは、そんなに好きでない。単にそれだから云うわけではないが、ほかに見ること為すことタクサンあるのに、なぜ、あんなにタクサンの人間が野球を見物しているか、ということだ。つまり、流行だからである。新聞が書きたてるからだ。面白くても面白くなくても、かまわない。流行をたのしむ精神である。
 これを私は集団性中毒と名づけて、初期の精神病と見るのである。麻薬中毒や宗教中毒は二期に属し、集団性中毒はこれよりは軽く、一歩手前の状態である。
 自分で見物した
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