分に考えがあるというようなことを云って威嚇した事実はあったようだ。
 そこでハリスにはお吉、ヒュースケンにはお福という妾がでることになったが、ハリスのもとめていたのは看護婦で、妾ではなかったところへ、お吉の方は妾と思いこんで荒れた気持で出かけているから、うまくいかない。お吉は三日でお払い箱になった。
 お吉の写真は今も残っているが、小股のきれあがった美人である。勝気の気性が顔に現れている。下田奉行組頭黒川の記録によると彼女は当時芸者もしくは淫売だったようで、しかし相当な美人だから下田では名の売れた娘だったろう。まだ十七であった。ハリスはお吉に腫物があるというのを理由に三日で宿へ下らせた。お吉から腫物が治ったし、いったん異人館の門をくぐった以上人が相手にしないからという理由で重ねて奉公を願いでたが、ハリスは拒絶して、三ヶ月分の給料三十両を与えて手を切った。二十五両の支度金と三十両、合せて五十五両、奉行所へだしたお吉の受取りは今も残っている。三日の勤めに五十五両を払ってやったハリスも立派であったと云えよう。お吉の代りに他の女を欲しがった様子はなかったから、ハリスは女色の慾望は少なかった人の
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