公認された代表として日本にのりこんで平和的に開国通商させ、アメリカのためにも日本のためにも歴史に名誉ある記載をのこすような仕事をしたいとの鉄石の決意を訴えるところがあった。
その決意と抱負は彼の日記にさらに生々しく読みとることができる。彼は下田へ到着する二日前からその抱負のために眠ることができないのである。そして、日本とその将来の運命について書かれる歴史に自分の良き名が記載されるように身を処したいと念じ、精神的と社会的な孤独こそ自分のなつかしいものだということをここでも繰返しているのである。
むろん商人出身だからアメリカに有利な商売をすることは彼の第一の目的ではあったが、支那の阿片戦争の如き愚をさけ、日本の運命のためにも自分の良き名を残したいというのが彼の野心であり念願であった。
しかし日本側には彼の誠意や人柄は理解されなかったので交渉は進まず、下田で一年の余ももたついた。唐人お吉が登場するのは翌年五月のことで上陸後九ヶ月目だ。
ハリスは当時胃カイヨーで重態であり、日本側に看護婦をもとめた。しかしその交渉に当った通訳のヒュースケンは同時に自分の妾をもとめ、その要求をいれないと自
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