の声が、この笛の音律と舞いの内容に深いツナガリがあって民族のハラワタをしぼるようにして沁みでてきたものではないかと思われ、そう信じても不当ではないと言いきりたいような大きな感動に私はひきこまれていたのであった。
 この笛の音のハラワタにしみる哀調についてはすでに述べましたが、異国の山中に流れきて死んだ亡国の一貴族の運命を考えれば、かかる哀調切々たる楽が神前に奏されることにはフシギがありません。
 むしろフシギなのは、無邪気な子供たちの遊びの中に、この武蔵野の隠れんぼのように哀調切々たる呼び声が呼び交されることの方ではありませんか。こう考えるとき、日本の子供の遊びの声には、このほかにも、民族のハラワタからしぼられたような切なさをたたえたものが多いのに気がつく筈です。
「ホーイ、ホーイ、ホータルこい。あッちの水は辛いぞオ。こッちの水は甘いぞオ」
 たぶんコマの血をひいているに相違ないと思われる雄々しくて美しい一人のミコトが敵にはかられて死にかけたときそこに流れていた霊泉をのんでいったんイノチをとりとめた悲しい神話の一節を思いだします。
 なお「ホーイ」というカケ声は、ササラ獅子舞いの中にも
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